top of page

AT/RTとは

病気について

 

非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(AT/RT: Atypical Teratoid Rhabdoid Tumor)は

中枢神経(脳・脊髄)に発生する非常に稀で悪性度の高い脳腫瘍です。

中枢神経以外にも腎臓など体のほかの部位に発生する事もあり、その場合は悪性ラブドイド腫瘍と呼ばれ中枢神経とそれ以外の部位発生が合併する症例もあります。

 

AT/RTは1987年に初めて中枢神経の悪性ラブドイド腫瘍として報告され

1993年に疾患概念が確立され、2000年にWHO(世界保健機関)にグレードⅣの胎児性腫瘍として分類されました。

 

半数以上が3歳未満の年少児に発症し、特に2歳未満の小児悪性脳腫瘍の中では最も頻度が高く、新生児期の発症もまれではありません。

海外と同程度の発症率が推測されていて日本では年間10~20人程と推定される極めて稀な腫瘍です。

 

症状

AT/RTは中枢神経系のあらゆる部位に発症しますが、小脳など脳の下部(後頭蓋窩)に発生することが多いです。腫瘍の発生場所によってさまざまな症状が起きますが後頭蓋窩に発生した場合には脳脊髄液という液体が脳から脊髄に流れる出口を腫瘍が圧迫し脳脊髄液の流れをせき止める水頭症という合併症がおこり、頭痛、嘔吐、意識障害といった症状がみられます。

大脳や脊髄に発症した場合には発症部位に応じた神経症状が見られます。

腫瘍内出血による急激な症状の増悪により発症する症例も少なくありません。

 

診断

急速に進行する症状とMRI検査で疑われます。

出血や嚢胞を合併しやすいという特徴をもちますがそれだけではその他の悪性脳腫瘍との区別が難しいため、確定診断は組織診にて行います。

AT/RTが疑われる場合には一般的な染色に加えてINI-1の免疫組織染色を初期から行う事が推奨されます。INI-1は本来正常な細胞に存在するタンパク(がん抑制遺伝子)ですが、AT/RTではこのタンパクをコードしているSMARCB1遺伝子が欠失または変異しているため、INI-1タンパクが失われ免疫組織染色が陰性となり、この所見が診断の決め手となります。まれにはSMARCA4遺伝子の変異が原因である場合もありますが、その場合はINI-1染色は陽性となります。

初発時から30~40%と高率に髄液播種を認めるため、脊髄のMRIも同時に行うべきと考えられ生殖細胞突然変異が疑われる症例では中枢神経外の悪性ラブドイド腫瘍のスクリーニングも必要です。

​​

治療

世界的にも標準治療はまだ確立されていません。

手術、化学療法、放射線治療、髄注併用化学療法、大量化学療法などを組みあわせた集学的治療が行われています。これまで治療成績の向上に資する因子として、通常の化学療法に加えて、髄注化学療法、大量化学療法、放射線治療が挙げられており、手術に関しては全部腫瘍が取り切れた方が予後が良好と報告されています。

手術では全摘出を目指した手術が行われるのが一般的ですが腫瘍の進行が速く、診断時に腫瘍サイズが大きかったり初回の摘出術で腫瘍がとり切れない場合も多いため他の治療の開始を遅延させないために生検に留め、化学療法をして合併症リスクが低くなったタイミングで腫瘍摘出を目指すこともあります。

 

化学療法は複数の作用機序が異なる薬剤で強力に治療すること、脳脊髄液に抗がん剤を投与する髄注化学療法、大量化学療法という特別な薬物治療が試みられることもあります。

化学療法レジメンや治療期間、髄注化学療法の有無、大量化学療法の有無については報告によって様々です。

 

放射線治療は治療の有効性については比較的確立しているものの、適切な照射範囲や照射時期については定まっておらず、晩期障害の軽減のため遅延局所照射や陽子線治療も試みられています。乳幼児の脳には、重大な副作用が懸念されるため行わない場合もあります。

 

治療について、どのような治療の組み合わせが最適なのかという事については定まっていませんが術後の合併症が起こりやすい事、腫瘍の進行が極めて早く治療の遅滞により早期に再増悪する事も少なくない事など治療が困難となる要因の多い疾患であるため、集学的治療を行うにおいては治療経験の豊富な施設での治療が望ましいです。

 

日本国内ではAT/RTに対する本邦初の臨床試験として、日本小児脳腫瘍コンソーシアム(JPBTC)が2014年~2019年まで「非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍に対する髄注併用化学療法と遅延局所放射線治療のパイロット試験」を実施しました。

高い治療効果と晩期障害の少ない治療確立や今後の治療開発に向け

現在はこのパイロット試験に次いでJCCG(小児がん研究グループ)脳腫瘍委員会 により「AT/RTに対する集学的治療の多施設共同第II相試験 」AT20という臨床試験が実施されています。

 

予後・晩期障害

疾患概念が確立された当初は、ほとんど治らない病気と考えられていたため診断当初から緩和治療が選択されることも少なくありませんでしたが、現在は集学的治療によって治療成績は少しづつ向上しており、40%前後が長期生存可能であるとわかってきています。

発症時に転移のない場合や3歳以上で発症の場合は比較的治りやすい事が分かっています。新生児期発症や発症時転移有りの場合の予後は非常に悪く20%未満ですが、治療により病気を克服する事ができた事例もあります。国内の8か所の主要施設で2005年から2016年の間に治療された38例の治療成績が報告されています。それによると、診断後5年での生存率は44.2%、再発せずに生存していたのは34.2%でした。 

 

AT/RT治療後には、腫瘍そのもの、水頭症、外科手術、化学療法、放射線治療など様々な要因によって、晩期障害が生じます

放射線治療では全脳全脊髄照射の与える影響が大きく、精神発達遅滞、高次脳機能や記憶力に悪影響を及ぼすことが分かっています。また、照射部位の成長障害や内分泌障害、脳血管障害、二次癌なども生じる可能性があります。

化学療法では使用する薬剤ごとに副作用があり、AT/RTの治療で扱われるアルキル化剤には不妊、白金製剤には聴力障害や腎障害、アントラサイクリン系の薬剤は心筋障害、髄注化学療法では白質脳症などがあげられます。

治療後の晩期障害は複数の要因によって生じるため、病気を完治させるのみならず、晩期障害を軽減することのできる治療法の開発が求められています

監修/大阪市立総合医療センター 顧問 原純一先生 
文/小児脳腫瘍AT/RT家族会 

2024年7月


出典:小児慢性特定疾病情報センター異型奇形腫瘍/ラブドイド腫瘍(非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍)

概要ページhttps://www.shouman.jp/disease/details/01_06_086/(参照2024年7月)

などをもとに作成

bottom of page